E.G. のロンドン Harbour Master, Limehouse



Etchings of Old London の3葉目の作品。(これに先立つ2作品はすでに紹介した:http://d.hatena.ne.jp/old_tallinn/20050405 http://d.hatena.ne.jp/old_tallinn/20050331) Harbour Master とは辞書によれば「港長」すなわち港湾管理の責任者。ここでは、作品の中央に描かれた由緒ある(とEGの言う)旅館の名。Limehouse(ライムハウス)はロンドン、イーストエンドテムズ川(Thames)北岸の地区。この作品が描かれた1883年当時、趣きあるかつての集合住宅や小建築群が次々と巨大な倉庫に置き換えられていったロンドン橋より下流のテムズ河縁にあって、ライムハウスにはいまだ古きよきロンドンの面影を見ることができるとEGは記している。また、メモには、テムズの水清き時代には市民が新鮮な外気を求めてHarbour Masterのバルコニーを訪れたともあるが、『リーダーズ英和辞典』はライムハウス地区は「悪がはびこりアヘン窟が多いところとして知られた」と説明している。いつのことだろうか。
この作品を含め本書の版画はセピアのインクで刷られている。また、モーゼルの諸作品に比べて前景を描く線は総じて太い。